大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和38年(う)1567号 判決 1964年2月29日

主文

原判決を破棄する。

被告人新井繁雄を懲役三月に、同内野隆三郎を罰金五〇、〇〇〇円に処する。

被告人内野隆三郎において右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人新井繁雄に対しては、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

被告人内野隆三郎に対し、選挙権及び被選挙権を有しない期間を三年に短縮する。

理由

本件控訴の趣意は、原審検察官山本清二郎作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は弁護人秋田経蔵提出の上申書記載のとおりであるから、これをこゝに引用し、これに対し次のとおり判断する。

控訴趣意一法令の適用の誤りの主張について、

(一)  所論によると、原判決は被告人新井繁雄、同内野隆三郎の両名に対する昭和三七年九月四日付起訴状記載の公訴事実、即ち

被告人新井、同内野の両名は、昭和三七年七月一日施行の参議院議員通常選挙に際し、全国区から立候補した河野義一の選挙運動者であるが同人の立候補の決意を知り、同人に当選を得しめる目的を以て、未だ同人の立候補の届出がないのに、

第一、被告人両名は共謀の上、(一)昭和三六年一二月一九日頃東京都江東区北砂町二丁目二〇二番地大衆食堂高梨たけ方において行なわれた理容組合江東地区講師会の会合に赴き、同所で選挙人である同会々長宮田松男外二二名に対し、右河野のための投票並に投票取纒等の選挙運動を依頼し、その報酬として右宮田松男に現金三、〇〇〇円を供与し、(二)同三七年一月一五日頃、同都台東区象潟二丁目一七番地料理店千魚こと大貫民子方において行われた理容組合東ブロック深川支部役員会に赴き、同所で選挙人である相川守外一九名に対し、前同様の依頼をなし、その報酬として右相川守に現金三、〇〇〇円を供与したものである。

との公訴事実中、各事前運動の点については いずれも改正前公職選挙法第二五三条第一項によりその罪の時効が完成したものであるから、免訴すべきところ、右各事前運動は各金員供与の罪と一個の行為にして数個の罪名に触れる関係にあるものとして起訴されたものであるから、主文において特に免訴の言渡しをしない旨判示している。然しながら、刑法第五四条第一項前段の観念的競合の関係が成立する場合にあつては 単純一罪と同様に一体として観察し、該当する罪名中最も重いものについての時効期間に従つて全体の公訴時効の成否を決すべきものであるから、本件の場合、重い供与罪の刑に対する一年の公訟時効(昭和三七年五月一〇日改正前公職選挙法第二五三三条第項)が適用され、軽い事前運動の点について先ず六月の短期間時効が完成すべきものではないと主張する。よつて所論に基き審究するに、観念的競合犯は刑法第五四条第一項前段により科刑上これを一罪として扱い、その最も重い刑を以て処断することゝしているから、時効についても各別にこれを論ずることなく一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるべきものと解する。そこで本件についてこれをみると、原判決が前記昭和三七年九月四日付起訴状記載の第一の(一)及び(二)の公訴事実につき各事前運動と各金員供与の所為とが刑法第五四条第一項前段の観念的競合の関係にあることを認めながら、事前運動の点については前記改正前公職選挙法第二五三条第一項により六月の時効が完成したものとして免訴すべきであるとしたこと所論のとおりであり、右は前記の理由により刑法第五四条第一項前段及び刑事訴訟法第三三七条第四号の解釈適用を誤つたものという外なく、而して右各犯行についてはいずれも重い金員供与罪につき定めた一年の時効が適用される結果 各犯行から昭和三七年九月四日の本件起訴の日まで未だ一年を経過していない本件については時効は完成せず、従つて右法令違反は判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであり原判決はこの点において破棄を免かれない。論旨は理由がある。(中略)

然しながら、原判決には前記(一)の法令の適用を誤つた違法があるので、その余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条但書に則り、原判決を破棄し、当裁判所において更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

原判示事実中第一の冒頭記載部分を「被告人両名は共謀の上前記河野義一の立候補の決意を知り、同人に当選を得しめる目的を以て未だ同人の立候補の届出がないのに」と改める外原判示のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

(証拠の標目)

原判決の記載のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

(法律の適用)

法律に照らすと、被告人両名の判示第一及び第二の各所為中、金員供与の点は各刑法第六〇条公職選挙法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は刑法第六〇条公職選選挙法第二三九条第一号第一二九条(前記法律改正前のもの)に、被告人新井の判示第三の各所為中金員供与の点は公職選挙法第二二一条第一項第一号に、事前運動の点は同法第二三九条第一号第一二九条((一)については前記法律改正前のもの)に該当するところ、以上の各事前運動並に金員供与の所為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段第一〇条により、いずれも重い金員供与の罪の刑で処断することゝし 各所定刑中被告人新井についてはいずれも懲役刑を、同内野についてはいずれも罰金刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告人新井については同法第四七条本文第一〇条により犯情最も重い判示第二の罪の刑に併合罪の加重をし、被告人内野については同法第四八条第二項により各罪につき定めた罰金額の合算をし、右刑期または罰金合算額の範囲内で被告人新井を懲役三月に 同内野を罰金五〇、〇〇〇円に処する。被告人内野において右罰金を完納できないときは、刑法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することゝし、被告人新井については同法第二五条第一項に則りこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人内野については昭和三七年法律第一一二号による改正前の公職選挙法第二五二条第三項により、選挙権並に被選挙権を有しない期間を三年に短縮する。

よつて主文のとおり判決する。(裁判長判事渡辺好人 判事目黒太郎 判事深谷真也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例